APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第3話/全7話  

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第3話/全7話      
                              古新 舜

 私はと言えば、あんな姉もいるくらいだからとりわけ家族で寂しい思いをした経験はなかった。両親も健在、祖父母も健在、ましてや曾祖父もといった大家族だったので、生活には不自由な部分があまりなかった。だからこそ、私の時間を『汚してくれるもの』の要素をいうのは、大いに不可欠な存在であったのだ。
 六年生も終わりが近づき、今年もまた一度目の冬桜の季節がやってきた。いつもならば雪が降ろうが校庭でサッカーボールを蹴り回っているのだが、最近は昔のようにはっちゃけた元気は見られなくなった。
「仕事の引継ぎとかがあって大変なんだってさ。婆ちゃんもさすがに荷造りまではできなくて。だから四月一日なんだって」そんな会話が彼の近くから聞こえてくる。《四月一日》――彼と過ごせるのはあと四ヶ月しかないんだ。そう思うと、私はその間、彼とどんなことをやり取りができるのだろう……と不安と共に焦りを感じていた。

 その限られた時間の中で、私は秘めた想いを告げるタイミングをずっと図っていた。毎日通う長い通学路や掃除当番で二人きりになった放課後、当番で給食を運んでいる廊下、だけれども私はどのタイミングでも小さな勇気を振り絞ることができなかった。その度に、雪桜のように嘘つきになれたらいいのにと臍を噛むのだった。
 そんなこんなで、あっという間に卒業証書を手にしていた私は、今の自分の気持ちと同じくらいちっぽけな姿をした学校を後にしたのだった。
 春休みの間は外に出ることもせず、一人部屋の中ですぐ近くにいる彼が何をしているかを想像していた。荷造りをしてるのかな、案外中学校の勉強をしてたりするんじゃないかな、とか。時々、うちの庭から彼の部屋を見上げては人影がいることで安心を覚えたりもした。そんなとき、ふと庭の冬桜が目に入る。まだ蕾のままであるこの樹がきっと今年は花の咲く前に、彼は東京に行ってしまうんだろうと思うと今にも涙があふれそうだった。
 そんな中、姉は卒業してから妙にふさぎ込んでいた私を、物陰から獲物を狙うように観察をしていた。そして、三月三十一日、私はいてもたってもいられなくなってリビングや玄関や二階を無造作に歩き回っていた。そこへ、ここぞと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、姉は話しかけてきた。「あんた、なんか悩んでるんでしょ?」私は、限界の振り幅で首を横に振る。勝気な姉がこんな小さな私の気持ちを理解してくれるはずがない。すると、姉は上目遣いに少し考える仕草をしてこう言い放った。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

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