APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第4話/全7話  

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第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第4話/全7話      
                              古新 舜

「お隣さん、引っ越しするのかしらね。家の前を通ると忙しなくしているのよね」稲妻が頭からつま先まで貫通するような感覚だった。私は立ち尽くし、それを否定しようとする――と思いきや、胸に詰まった想いを吐き出すかのように、自然と姉にすがりついてしまった。「あたし、どうしたらいいのかな……」
 姉はすかさず、「あんた知ってる?」と不気味な笑みを漏らす。「今日は、あんたにとって超ラッキーな日なのよ」何のことだか、さっぱり判らなかった。「『エイプリルトゥルー』っていうのよ」――エイプリルトゥルー、そのどこか聞き覚えがあるようでないカタカナ語が私にどう関係があるのだろうか、いつもの姉のように自分に都合のよいことばかりが起こる言葉ではないだろうか、数秒の間に、普段の私では考えつかないくらいの想像が頭の中を駆け巡った。
「十二年に一度……自分の干支と同じ年のときね、その年の三月三十一日はエイプリルトゥルーって言って、心に思っていることを喋ると本当になる日なのよ」私は十二年間の人生でそんな素晴らしい日があることを知らなかったことに驚くと共に、その直後、モワモワと沸き立つものが生まれてきた。「私は十二歳のときは、メロンが食べたいって母さんに言ったら夕飯に出てきたのよ、二十四歳のときは、大好きな人に好きですって伝えたらその人と恋人になれたりね」
 メロンが食べたいっていうのは、単なるお願いにしか思えないけれども、そんな素晴らしい日があるのなら、使うにこしたことはない。私は、春珂君のことが好きだったが、別に恋人になりたいとまでは思っていなかった、ただ側にいてほしい、それだけだった。

 私は夕飯を食べ終えると部屋に籠り、姉の部屋から盗んできたファンデーションをうっすらと塗り、臨戦態勢に備えた。時計は既に二十時になっている。本当はもっと早く出かけたかったのだが、体と気持ちがなかなか仲良しになってくれなかった。そろそろ子供が外に出かける限界の時間だろう、私は母親に近くのスーパーまでお菓子を買いに行くと告げ、こっそりと家を出ようとした。姉はその姿を見逃すはずもなく、にんまりと笑顔を突きつけて、親指をまっすぐ立て私を見送った。
 いつもなら、学校に通うときに何気なく通る目の前の彼の家が、私には既に蜃気楼のように手が届かない場所にあるように思えていた。毎朝覗くたびに、彼は父親と口喧嘩をしている。話の内容は判らないが、きっと寝坊しただの、洋服が乾いてないだの、母親がいないことで起きている些細な「戦い」だったのだろう。それをいつもお祖母さんがなだめて送り出していたが、玄関先で私の顔を見つけると、何食わぬ顔をして「何見てるんだよ」とふっかかってくる。そんな姿さえも、四月からは見られないと思うと、彼への想いとは違った場所で胸が苦しくなってしまう。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

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